「自粛」大型連休が明け、雇われ人仕事が再開した。備忘録的に、2020年5月での日記を残しておこうと思う。
2020年4月の業績
連休明けに、4月の数字が確定した。
あまり影響は受けていない、というよりも例年より若干、出荷数量は増えていた。しかしこれには但し書きがある。
安価な日用品向けの出荷:大幅に増
高付加価値の製品の出荷:減
という中身だった。前者の典型は「包装材」であり、後者の代表は「自動車」である。自動車は工場の稼働停止もあったし、消費が冷え込んでいるので仕方ないことかと思う。
包装材は、スーパーで売っている食品だけでなく日用品や、輸送関係でも消費されるようなモノの材料となっているので、こちらも増えることは予測できていたが、それを上回る実績だった。
供給する業界が幅広い、というのがリスクヘッジになっていた。化学品(素材系)の持つ強みの一つで、機械系との違いだと再認識した次第だ。
原料費の大幅ダウン
原油価格が暴落したというニュースは記憶に新しいが、その原油を原料とする化学品ももちろん安くなっている。さすがに原油そのもののように極端な下落はないものの、化学品の値段は原油価格にある程度は連動させる仕組みになっているので、連動して下がっている。そのため、現状では原料が安くなって、利益も普段より多めになっているとの一報を受けた。
当然、僕らのお客様からも「原油安くなってるんだから下げてよ」という圧力はあるものの、「もしすぐに反転したらまた戻すのアレですから…」ということで据え置いている。
原油が上がったときは即座に値上げするのに、原油が下がったときはバックレるのが化学メーカーの「あるある」だ。
しかし仕方の無いこととも言える。原油の値段がパッと変わっても、既に購入した分の巨大タンク満載の原料は高い時期に買ったものだから、簡単には均一化できない。そういう事情もあって、値段は協議の末に、ゆるやかに下げていく交渉をするのが僕たちの化学メーカー営業マンの仕事である。
メーカーという立場はやっぱり強い
こんな交渉がなぜできるのか、不思議かと思う。僕も最初の方は不思議だった。そんなことしてたら、お客様は痺れを切らして、他社の製品に切り替えちゃうじゃないか、と。
しかしその心配は杞憂だった。化学品というのは非常に精密な品物であり、お客様にとっては原料となる。この原料が、少しでも違うと、末端製品に大きな差が出てしまうことがある。
もちろん、そういう事故が起きないものもあるが、万が一、起きたときのダメージが大きすぎるのだ。材料を切り替えたロットの、何万個もの製品を回収する、という事態もなくはない…というか実際にある。
そしてその回収騒ぎを起こしてしまった原因が、ケチった末の原料切り替えだった…なんてことになったら、変更を決めた購買担当者はどうなってしまうのか…とても恐ろしいことだ。
そういう事例は古今に事欠かないので、購買担当者は簡単には原料を切り替えることができない。
というか、そもそもそのまんま切り替えられるような化学品は、あまりない。よほど純粋な、純度100%に限りなく近いようなものくらいだ、切り替えが簡単なものは。
しかしそういうものであっても、不純物が0.1%入ってたりすると化学反応に影響を及ぼしたりするから、やはり簡単ではない。
そういうことも踏まえて「今まで問題がなかった実績のある製品」というのは強い。強すぎる。だから僕らも他社のシェアを奪うのはとても難しい。
逆に、メーカーはそれほどお客様の命運を握っていると自覚しているから、製品の精度高く製造し、在庫を切らすことなく安定供給をしていく義務がある。そういうところで、化学メーカーとお客様の繋がりは非常に強い。
ゆえに、営業マンに求められるのは売り込みではなく「ちゃんと店番対応すること」なのである。
「営業」しなくてもいいのか…?
ここで疑問が湧いてくる。さて、僕ら営業マンは実は要らないんじゃないか?問題である。実際、4月はほとんど在宅勤務だったし、お客様からも訪問を自粛してくれと通達があったから、普段通りの営業活動はできない。
電話やメールは使えるので、「この書類欲しい」とか「この資料ないか?」とか「こういうトラブル起きたんだけど」ということには、対応できた。僕の営業分類でいうところの「店番」である(分類に関しての記事は、最後にリンク載せときます)。
「面談」ができないとなると、5分類のうち「売り子」「大使」「宣教師」はできない。「渉外」もその内容の7割を失う。僕も今回のテレワーク&面談不可という縛りを受けて感じたのは、面と向かっての面談ができないと「もう一歩踏み込んだ情報」が採れないということだった。
お客様の秘奥に踏み込めない
お客様にも立場があるから、秘密にしなきゃいけないことがたくさんある。他社の価格のこととか、今新しく企画している新商品のこととか、人事のこととか、そういう秘密だ。これらをうまく聞き出すことができるのは、やはり面談しないと難しい。
また、そういう機密情報を喋ってくれるまで仲良くなる…信頼を得るには、やはり面談や、一緒に飲みにいくとかゴルフするとかしないと、難しい。ゲームでいうところの友好度を上げるには、電話やメールじゃ難しい。一定以上の友好度がある状態なら、電話で情報を聞き出すこともできるけど、それでもやっぱり面談が最良の手段となる。証拠が残ったり、管理者に見えてしまうメールでは、当然そのような機密情報は聞き出せない。
そういう、機密情報を他社に先んじて入手できるから、初動が早くなって、結果的に大きな案件に噛ませてもらったり、他社を出し抜いた価格を提示して採用をもぎ取ることができるのだ。
そういう「諜報」という手段の大部分が封じられている今、営業マンの存在価値は確かに半減していると言えるだろう。
ただし、このようにお客様から情報を得られないと、新規の仕事は取れないので、徐々に売り上げは減少していってしまうと思われる。今は隆盛のものでも、いつかは売れなくなる日が来るからだ。そのために、営業マンは新規開拓、新規案件を探して、次世代のネタを見つけ続けることが求められる。化学メーカーのいいところは、そのスパンがスゴイ長いというところだ。
参考記事:営業タイプ5分類
コメント
はじめて書き込みをさせていただきます。
ヤコバシさんの白熱教室を10周ほど拝聴させていただき、おかげさまでブラック商社から化学業界の営業職に転職ができました。
化学業界と言っても原料メーカーではなく、B to B 向けの製品を作るメーカーなのですが寡占(2社のみ)のトップメーカーに就職ができました。(と言ってもニッチな市場ですが…)
企業の選定方法で、特に商品の売り方と財務の部分が役に立ちました!従業員一人当たりの利益と、営業利益がどちらもよくても、口コミサイトを見ると一人当たりの仕事量が多そうだな等の傾向を掴むことができました。
本来はヤコバシさんと同じ原料メーカー志望でしたが、これまでの経験で弾かれたり、緊急事態宣言直前で求人が締め切られたりという形で縁が全くなかった結果となってしまいました…
今の仕事は家賃と光熱費の補助が出て最高なのでしばらく様子見して、状況を見て原料メーカーに行けるように準備は進めておきます。
今回は本当にありがとうございました!
また有益な情報がリリースされましたら是非ご購入させていただきます!
コメントありがとうございます!
ブラックから転職できたとのことで私も大変嬉しく思います。このようにブラックで消耗する若者が減ることにより、結果的に国は豊かになるのではないか、と思っています。
原料メーカーでなくても、寡占化が進んでいる商品ならとても良いですね。「売る側が強い」はとても良いです。ニッチでもいいんです。むしろニッチな方が、大企業の参入がなく安全な市場と言えます。良い商材に巡り逢えたようですね。
そうです、口コミは本当に大切です。いかに数字が良くても、経営者とか、マネージャー(部課長)がブラック的思考を持っていると、一発でブラック化します。ただ、化学業界は商品の特性(勝手に売れる)から、ブラック化しにくいという特性がある、というのが大きいですよね。
2020年の今は、コロナによる社会的不安から、求人を絞っているのは致し方ないことです。ただ、私が見ている感じだと化学業界は建築・自動車向け等は凹んでいますが、それ以外が例年並みなので致命傷はない印象です。日本全体から見たら被害は少ない方だと思います。
そして団塊の世代がさすがに70歳を迎えて要職から退き、嘱託からも退き始めたので、人員不足は加速しています。なのであきらめず、エージェントと定期的に会うことをお勧めします。私の勤務先も、10年に1回のタイミングに偶然出会ったから入れました。「縁」と言えばそこまでですが、でもそんなもんです。なのであきらめず、探し続けてみてください。
家賃と光熱費でるなんてスゴイですね!社宅とか寮みたいな感じでしょうか?その分がそのまま貯金につながりますから、年収増と同じ効果ですね。
お役に立てたようで何よりです。
次は営業に関する情報と、その次は人間関係や社内政治に関する処世術の本など、若き日の自分が欲しかったものを作っていく所存ですのでお楽しみにお待ちください!