4月は全然、ブログの更新ができなかった。
まさかこの僕が「仕事が忙しかった」などという言い訳を繰り出すなんて思ってもみなかった。
「化学メーカーの営業職は、そもそもやることが少ないから、ゆるふわでオススメです」
などと繰り返し述べてきた僕自身が、一番ドンビキしたのがこの1ヶ月だった。
未来の僕のために、書き残しておこうと思う。
飛行機が飛ばないのはヤバかった
2021年は1月から、まずかつてないヤバさの兆候があった。
コロナの影響で、飛行機が飛ばない。
世界的に旅行も減ったし、ビジネスの出張も大きく減った。
飛行機は飛ばない。
そうすると飛行機の燃料(ケロシン)の消費が少なくなる。
そうなると原油から飛行機の燃料を精製する需要がなくなってしまうから、精製自体が減る。
この精製の副産物として、化学業界が使う材料の源流の物質が生まれてくるのだが、これが減ってしまった。
その減り方は1980年台くらいの水準にまで一時、退行してしまったと聞く。
そのために供給量が大きく減ってしまった。
需要ブーストで世界各地で工場壊れる
昨年はコロナの影響でさまざまな需要が減って、工業製品も生産量をかなり減らした。
自動車や、新築の建物などが減ったし、イベントが減って、それに使う紙関係やプラスチックやフィルムなども大きく需要が減した。
そのため、その材料である化学品の上流の物質も、減産した。
しかしながら、昨年末くらいから、特に中国が回復してきて大きな需要が発生した。
そして2020年度の業績がボロボロだったメーカー各社は、その需要に突っ込んでいって、大きく受注し、生産を急ピッチで再開した。
遅れを取り戻すように、詰め込みまくって、その結果、材料もたくさん作れ、早く作れとなった。
僕らも、そしてその上流の材料も「作れ、作れ」となり、生産をフルスロットルで行った結果、世界中の大規模プラントが軒並み、故障してしまった。
操業停止である。
オイオイ化学プラントって、そんな簡単に壊れちゃうの!?と思うが、この故障とは何も爆発とか火事とかではなく、ちょっと「配管の隙間から漏れちゃってて危ない」とか「穴空いてて、圧力が上がらなくてうまく作れない」とかそういう類のトラブルである。
なので大事故ではないのだが、生産はストップしてしまう。
しかもこれが同時期に起きてしまったので、世界的に原料が足りなくなってしまった。
米国の寒波とスエズ運河
米国の寒波の影響も大きい。
アメリカは巨大な市場でもあり、そのための原料は自製して、地産地消しているのだが、寒波の影響で電力が供給できず、化学プラントが結果的に止まってしまったという。
そうなると北米域内の原料はヨーロッパやアジアから引っ張ってくるしかない。
しかし先述のように原油の精製は減り、世界各地のプラントは故障して、ここにきてアメリカの寒波である。
さらにスエズ運河のトラブルもあり物流は混乱した。
衰えない需要
先述の通り、特に中国では需要の回復が著しく、そのために増産、増産の掛け声で日本のメーカー各社にも受注が相次いでいる。さすがの需要量だ。
中国だけではなく、アセアン諸国でも需要は回復し、やはり需要が旺盛、供給を完全に上回っている状態だ。
これまで紹介した
- 原油精製量の減
- 世界中のプラント故障
- アメリカ寒波
- スエズ運河詰まり
- 需要が旺盛
これらが重なったことにより需要>>>供給となり、原料の奪い合いが発生している。
僕の勤務先は御多分に洩れず、この原料奪い合い競争に巻き込まれた。
というか巻き込まれていない化学メーカーなどほぼない。
玉不足と、値上げのお願い
しかしながら、需要は旺盛なので、僕らも供給のため原料を確保しなくてはならない。
とはいえ、競合他社も全く同じ状態なので、そうなると原料の「オークション」が始まってしまう。
こうして僕の勤務先は高い原材料を掴まざるを得ず、採算性が急激に悪くなってしまった。
しかもその確保した材料も、リアルな需要量に対しては、少し足りない。
だから供給制限といって、お客様に
「100のご注文をいただきましたが、他のお客様の分もありますので、90で勘弁してください」
と謝って回らなければならない。
その上、高値で原料をつかんでいて採算性が悪いので、値上げのご協力もお願いして回る必要もある。
これはかなりの「いざ鎌倉」の事態である。
※「いざ鎌倉」とは、御家人でゆるふわしている化学メーカー営業マンが、年に1〜2回、トラブルや値上げのために出動して戦わされることである。
この時のためにアタマ数を確保して、飼われているといっても過言ではない。
過去最大級の「いざ鎌倉」
今回の「いざ鎌倉」はかなりヤバい。
僕が入社してからはもちろんのこと、ここ20年で一番ヤバいと上長たちは言っている。
リーマンショックの時も、震災の時も、これほどの事態はなかったと。
これらの危機は景気は悪かったけれども、材料自体はちゃんとあった。
原料も多少値上がりしても、上がって1〜2割くらいまで。
しかし今回はオークションもあって、ものすごい値上がり率だ。
こうして過去類をみない「供給制限」と「異次元の値上げ」という「いざ鎌倉」が3月下旬からスタートして、そのための資料作りやら、製品の見積もりのし直しやらがあって、4月は本当に忙しかった。
お客様各社に、お願いのメールや電話をして、必要なら訪問して、訪問ダメならWeb会議で説明して…とまさに「いざ鎌倉」をしていた。
そんなもんだから、毎日帰りは遅く、気力も使い果たしているから執筆活動もままならない。
こうして「仕事が忙しくて書けなかった」という言い訳に相成ってしまった。
屈辱である。
やっぱり雇われ人、やだな
このガチ「いざ鎌倉」はまだ終わっていない。
ただ前哨戦は4月でだいぶ進んだ。
連休後に後半戦と、場合によってはさらなる値上がりや、原料不足と戦わなくてはならないだろう。
そして思う。
「なんで人様のビジネスのために俺がこんなに頑張ってんの?」ということだ。
そりゃ雇われているんだから、当たり前だろうと思う。
「会社」という船に乗っているクルーなんだから、船底に穴が空いていたら直すのは当たり前のことだ。
ただ…ただ、なんで人様のビジネスのためにこんなに苦労して謝って頭下げて、怒られて嫌な思いして、利益確保して…とやってんだろう…とシンプルに思った。
もちろんわかってる。
この「いざ鎌倉」を僕ら営業マンが完遂しなければ、船は沈み、僕ら他の船を探さなきゃならなくなってしまう。
だから最前線で戦うんだけども。
でもなんで人様のためにこんなに頑張ってんのかな感は拭えない。
いやわかるんだけどね、頑張らないと自分が困るっていうのも、職務上必要なことであるということも。
それでも…やっぱり、雇われ人ってくだらねえなぁと、思ってしまうのでした。
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