化学メーカー営業マン日誌(2022年秋)

営業テクニック

最近こんなツイートをした。

あぶれた顧客は罰ゲーム

「あぶれた顧客を罰ゲームとして処理する」というフランケン先生のツイートを見て、ビビビときた。
(後に、先生からは「これは研修医の話なのだが、こういう解釈が出てくるのは面白い」と言っていただいた)

「あぶれた顧客」とは、私、化学メーカー営業マンにとっては「儲からないお客」である。

量が少ない、売値が安い。

複合する場合もある。

とにかく会社にとって「オイシくない」お客様だ。

昨年から続く原油価格・エネルギー価格の高騰、物流の遅延、などを背景に、値上げが続いている。

そして2022年Q2はナフサ価格86,100円/klと過去最高を記録して、原材料メーカー各社、より一層苦しい局面となってきている。

私の勤務先も例外ではなく、採算の見直しをひとつひとつのユーザー、一品一品ごとに精査を行った。

結果、10年以上価格を変更していない製品や取引先が多数見つかった。

それらを片っ端から値上げしてまわっているという状況である。

数量が少ないとか、たまにしか売れないという理由で10年単位で価格改定を見逃されてきた商品が、今、厳しい目を向けられるようになってきている。

(この10年間の営業マンのサボリとも言える笑)

その昔は、

「まあ数量少ないけど、赤字じゃないならいっか」

という寛容さが化学業界にはあった。

しかし、原材料費の高騰により、収益性が一気に悪化したために、不採算なもの、つまり船底に開いた「穴」のようなものは塞がなくてはならなくなったのだ。

その「穴」とは具体的には、少量で、安い単価のユーザーたちである。

まず少量品というのは、冷静に考えると非常に不採算である。

まず製造バッチが小さいため、人件費が占める割合が大きくなる。

加えて、少量品ということは出荷数量も振るわないので、倉庫にステイする時間が長くなる。

倉庫を占有してしまう時間が長いのだ。

そういう在庫が多いせいで、通常の品物が倉庫に入りきらなくなる。

そうなったら、外部倉庫にお金を払って預けなくてはならなくなる。

さらにそれが危険物だったりすると、結構高い金額が取られてしまう。

法律上、危険物はちゃんとした対策がなされた倉庫に預けなければ違法となってしまうので、高額でもちゃんとした倉庫に預けざるを得ない。

私の勤務先でも、さまざまな検証がなされて、不採算を少しでも軽減するべく手法が検討された。

大型顧客の値上げが難航しているのが大きな理由のひとつであったが、少量品の顧客の収益性が悪いこともまた、見逃せない要素のひとつであった。

特に、外部倉庫を借りなくてはならないとか、出荷が小刻みで、運賃が余分にかかっている等の問題が発覚して、やはり少量品ユーザーというのはマークされてしまった。

化学品の売れ行きは末端商品次第

化学メーカーにとって出荷量が少ない製品というのは、つまりお客様の商品も大して売れていないということを意味する。

化学品の場合、お客様が好き嫌いで発注するということはない。

お客様が作っている製品が売れるから、材料として我々の化学品もまた、売れる。

我々の化学品が売れていないということは、お客様の製品もまた売れていないということを意味する。

有体に言えば、世の中からの需要がないということだ。

しかしなぜ今も少量ずつ使っているのかといえば、それは仕様変更が面倒くさいとか、昔からずっと使っているからという理由で細々と売れているだけのパターンが多い。

そしてそれがまかり通ってしまうのは、化学メーカーが安く売ってしまうからだ。

末端製品が安値を維持できてしまって、結果的に末端ユーザーは切り替え検討をする圧力にいつまでもさらされない。

そのため、少量出荷品は終わらない。

いつまでもいつまでも、チョボチョボと、高くもない値段で売れていく。

その裏側では、外部倉庫代などが発生している。

その費用は他ユーザーの利益から補填されていると考えることもできる。

飽和している市場

また、数量が多くても値段が上げられないユーザーもいる。

これは多くの場合、最終製品の相手が一般消費者で、しかも「安価」というイメージが定着している商品を作っているから発生する。

ひとつ数百円の、代わりがいくらでもあるような製品だ。

今述べたように、「代わりがいくらでもある」状態だから、市場には常に緊張感があり、一円単位でも値上げが難しいという状況にある。

こういう商材は、要するに供給過剰の状態であるから、わずかな値上げでシェアが動く、一触即発の状態にいる。

要するに余っているのだ。

だぶついているのだ。

こういうものの原料を売ることは、オイシくない。

しかしそのための原材料は容赦なく値上がりする。

それを価格転嫁しようとしても

「いや、末端価格あげられないから、オタク(化学メーカー)も値上げしちゃダメだよ。認められません」

などと平気で言う。

そして彼らの抑止力は

「ウチを値上げしたら売り負けて、シェア失うよ?」

もしくは

「ライバル社に切り替えちゃおっかな〜(チラッチラッ」

のどちらかだ。

罰ゲーム的な市場

これまで、2019年までであれば原材料はじゃぶじゃぶに余り、化学メーカーはシェア争いに躍起になっていたから、この脅しも効いた。

しかし、昨年からは違う。

原材料は貴重となり、玉不足。

大きな量は、確保することも難しいし、プレミアムを支払わなければ調達できないケースも出てきた。

このような環境下で、安値をキープしようとするお客様は、もはや害悪でしかない。

そういう害悪で、粗悪なお客様を抱え続けることは、これからの化学メーカーにとってはまさに「罰ゲーム」となる。

そのお客様は、それしか売り物がないから、その商売を続けていくしかない。

そのほかに方法がないからだ。

ライバル過多で値段競争が激しいから、生き残るには安売りし続けなくてはならない。

価格にうるさい一般消費者には、原材料が高くて、という言い訳は通用せず、客足が遠のくという形で、淘汰されていってしまうだろう。

そのため、儲からなくても、現場が疲弊していても、続けなくてはいけないのだ。

一般消費者の、しかも低所得層をお客様にしていると、こういう事態が起こる。

これはもはや罰ゲームと言えると思う。

やめたいけどやめられない。

まさに罰ゲーム。

これに対して化学メーカーは、そういう事態は少ない。

原料を供給している業界が多岐に渡っているから、儲からない分野は製造中止による撤退や、廃番などができる。

事実、多くの大手企業がこの数年間で不採算な基礎化学品を結構、やめている。

4社しか作っていなかったものを、1社が辞めたりしている。

その理由は「不採算」。

「儲からないから、やめます」

これを止めることはできはしない。

だってビジネスなんだから。

「不採算」はやめるのに立派な理由で、異論を差し挟む余地はないのである。

お客様も「赤字でも続けろ!」とは言えない。

そういう局面に入ってきているのだ。

真の優しさ=「値上げ」

私は最近強く思う。

真にお客様のことを考えるならば、値上げをしっかりすることが大切であると。

もちろん「値上げ」と言うと多くのお客様はまず不満を顔に出す。

その気持ちはもちろんわかる。

しかし、その値上げを、下手に見逃してあげたりしてしまったら、どうなるか。

そのお客様向けの製品は、その分、儲からなくなっていく。

営業マンが、個人の感情で、お客様の顔色を伺うと、こういうことが起きる。

値上げは、歓迎されない行為というのは当たり前のことだ。

しかしながら、値上げをしなかった先に待っているのは

  • 「不採算だから取引中止しろ」
  • 「不採算だから大幅値上げしろ」
  • 「不採算だから事業撤退します」

という結末である。

これらがお客様は最も困る。

代替品もなく、もしあっても試験評価に多大な時間と労力を必要としてしまう。

最悪、切り替え不能かもしれない。

そうなると、お客様はビジネスを継続できなくなってしまう可能性がある。

私が今担当しているお客様たちは、そういう過去のヌルい営業担当たちのせいで、かなり不採算に陥っていることがわかった。

今回の4次値上げで適正ラインまで値上げできなければ、廃番推進せよと私は言われている。

「私(ヤコバシ)が担当になったの、今年からなんですが…」

というお客様もある。

とはいえ、崖っぷちにいるお客様たちを救うには、値上げ遂行するほかない。

お客様たちにも正しく現状を理解していただいて、なぜ値上げが必要なのか、そのメカニズムと背景の理解をしてもらわなければならない。

私の担当先は中小企業が多く、皆、原材料の値上がりシステムをよく知らない。

なぜナフサ連動で値段が上がるのか、よくわかっていなかった。

そんな感じだから、これまでの交渉で無駄に粘ってしまって、弊社の歴代営業担当が負けて、適正でない値上げしか遂行できずに、結果的に今こうして、窮地に立たされているのだ。

これは歴代営業担当の怠慢だと思うし、彼らは一見、優しそうに見えるかもしれないが、実は優しくはないのである。

単に自分が嫌われたくないから、甘くしただけで、それが結果的にお客様を窮地・死地に追い込む行為だという自覚がないのだ。

「普通の人」は自分が怒られるかどうかでしか物事を判別しない。

特に勤め人、雇われ人にはこの傾向が強い…というかこういう人しかいない。

真の優しさとは、お客様を窮地・死地に追い込むことがないように導くことである。

そのための説得トークと、資料と、やはり真の優しさという「心」を持つことが必要だと思う。

会社が苦しくなってきたら、儲からないお客様から切り捨てていくのは当然のことだ。

だからこそ、ランキング下位に自分の担当先をステイさせていてはいけないのだ。

そこはまさに死地である。

「知らんぞ?」も言っておく

ちなみに、このような説得を聞いても、それでも言うことを聞かないお客様には「もう知らんぞ?」と言っておこう。

手を尽くしても、助けられないお客様が出てきてしまうのは、仕方がない。

自社のためには、ご退場願うほかないのだ。

そのための予防線張りとして、メールや文書で最終警告をし、打ち切りをしていく。

こういうお客様を切り捨てることが、ちゃんと値上げを飲んでいるお客様たちへの誠意なのである。

コメント

  1. ジロー より:

    今回も記事更新、以前のコメント返信ありがとうございました。

    私の会社では原価は上がっていますが製品の値上げはまだしていません。
    原価が高止まりしたら上げる、とのことですが。
    早くすればいいのに、と思ってます。(笑)
    (まだ入社して日が浅くよく分かっていませんが)

    私の会社は、化学業界の「原料→基礎化学品→中間化学品→最終化学品、消費財→他産業、ユーザー」の流れの中で、最終化学品に属します。

    転職活動の際に、川上の方に行きたいとは思っていました。
    地元又は転居してもいいと思える勤務地で探すと川上の企業はやはりそう多くなく、未経験の中途は不可な大手であったり、全国僻地転勤ありの為避けたり、数少ない候補先も書類や一次面接で落ちてしまったんですよね…。
    ヤコバシさんのところは転勤ないですか?

    今の会社に現時点で不満は無いのですが、28歳の私がジジイになる又は勤め人卒業するまで存続するか先のことは分かりませんし、数年後に川上に転職できる知識経験が身につくかというと微妙な気はします。
    もし転職を考えるときが来たら、またヤコバシさんの発信で勉強させていただきます!

    • ヤコバシ ヤコバシ より:

      近況報告ありがとうございます。このように交流できてうれしく思います。

      ジローさんの勤務先、値上げはまだ待つとのことでした。これは商材によっては致し方ないものもあります。
      私が扱っているような材料はナフサ連動の業界慣習ですが、カタログに載っていたり末端に近いものは動かしにくい、と聞きます。
      以前のコメントでは「混ぜ物屋さん」とのことでコンパウンドのメーカーかと思いますので、複数原料の値上げがあるためにステイしているのではないかと思います。
      また、リアルに赤字であるとかであれば値上げを急ぐはずですので、そこまで焦っていないのであればもともと儲かっていて、
      多少は材料アップの分を受け止めるだけの体力がある会社ということで良い勤務先なのではないでしょうか。

      川上への転職は好ましいことですが、28歳ならばまだ焦らなくても大丈夫かと思います。
      前回の転職時ではジローさんのキャリアに化学の属性が付いていなかったと思いますので、大手が難しかったのは致し方ありません。
      今回の転職で化学属性がキャリアについたので、勝負はこれからだと思います。

      これからお仕事をしていく中で、多くの材料メーカーの社名を聞くはずです。
      ジローさんの勤務先が取引している、していないは別として、多くの会社を知る機会があるはずです。
      その中で、自分として「良いな」と思える会社があれば検討すれば良いかと思います。
      もちろん現職を続けることも良い選択肢のはずです。
      社内に若手(ライバル)が少なければますます良いです。昇進ほぼ確実となります。
      儲かっている会社で、待遇が時間対効果で悪くないのであれば激務高給よりも良いと私は思います。

      私の勤務先にも転勤はありますが、あまりネガティブではありません。
      都会に住むメリットが特にないと思い始めているためです。

      東京水準の給与もらいつつ転勤で地方勤務、野放し状態、を目指しております笑