化学メーカーは2022年もおすすめできますか?

就職活動

先日、ツイッターにてこのようなご質問をいただいた。

「転職を考えています。

『キツい営業 ラクな営業』を読み、

白熱教室も聞きました。

現在も化学メーカーはおすすめできますか?」

確かに僕もこの半年ほどは、値上げが大変だとか、材料がなくて困ってるとか、ネガティブな発信をしてきたので、ご心配になった方も多いかと思う。

化学メーカーの輝きは失われてしまったのか?と。

そして僕自身も、色々考えた。

具体的には…転職すべきかどうか。

そして結論として

「転職はしない。やはり化学メーカーは今後もおすすめできる」

と思った。

化学メーカーをオススメしていた経緯

僕が「化学メーカーの営業はホワイトだからゆるふわサラリーマンやるならオススメです」と声を大にして主張し、聖帝サウザー師匠の白熱教室に出演させていただいたのは2019年のことであった。

あれから、2020年でコロナ禍になり、続く2021年は原材料の不足と高騰で、状況は結構変わってしまった。

僕が化学メーカー営業をオススメしていたのは、下記の点からだった。

  • 毎月勝手に売れる性質がある商材なので、営業マンとしてラク。
  • 儲かっているため数字に追われない。サボりにも寛容。
  • 長い歴史により給与テーブルが昔のまま固定化されており、年収は中の上。
  • 若手のライバルが少なく昇進しやすい。

この特性により、大して頑張らなくても並以上の給与が確保できる。

そもそもやることが少ないタイプの仕事なので18時には退社できることが多い。

仕事の強度が低く気力も余るのでアフター5や休日を自分の事業に費やせる。

それどころか仕事中にもサボってできちゃうよ、というのが、僕が化学メーカーを強く勧める理由だった。

また、仕事の内容としても、知識経験が長く使える業種でもあるので(イノベーションが割と少ない)、いつの間にか専門家になれているし、その特性から、ポッと出の後輩に負けることはないということもある。

また現状では若手がとても少ない業界なのでライバルが少なく、昇進もしやすいというオマケもついている。

若手が少ないのは、やはり文系の人間には「化学」という単語だけでアレルギーが出てしまって就活や転職の候補からハズしてしまうからだろう。

しかしながら、コロナ禍によっていくつかの利点が消えてしまった。

不要不急の外出がなくなる

まずコロナ禍においては、人同士の接触がNGとされた。

お客様の会社へ赴いて面談するという営業活動もNGとなった。

2019年までは、車で2時間かけて赴くような客先のアポを入れたら、直行直帰も余裕だったし、なんなら空アポを入れてもよほどのことがなければバレなかった(明らかに用事がないとかでなければ)。

この「移動時間」は一見仕事に見えるが、実は半分フリータイムだった。

オーディオブックやラジオを聴いたり、電車や新幹線の移動であれば読書もできた。

先述のようにエア・アポイントメントならばそのまま全て自分の時間にできた。

当時を懐かしみ、素直に「良い時代だったな」と思う。

しかしコロナ禍によってアポイントが禁止されたとなれば、移動時間はなくなる。

代わりにWeb会議が増えて「なんだ出張しなくても打ち合わせできるやん」という認識が広がった。

もちろん、全てがWeb面談でいいわけではなく、旧交を温めたり、はじめましての時などは、もちろんリアルにお会いした方が良いのだが、そうも言えない事態であったこともまた事実。

特に明確な議題があり、リアルに仕事の話で打ち合わせをしたい、ということであればWeb会議は非常に有用なものであることがわかったのだ。

つまり、わざわざ訪問する必要性が半減した。

今までは「とりあえず訪問」で良かった所が「それ、Webでよくない?」という選択肢ができてしまったのだ。これは大きい。

「移動時間」という致し方ないコストがあったから、堂々と外出しその時間をフトコロに入れるというのが化学メーカー営業マンの良いところであったのに、それが封殺されてしまった。

業績はどうか?

2019年までは、化学メーカーは軒並み、業績が良かった。

世界中で経済発展し、いろんなものが好調だった。そのため、景気は良かった。

※日本は消費税の増税で冷え込んでいたので内需は悪かったが、輸出が好調だった。

参考までにだが、2019年の付加価値のデータをまとめてくださった方がいたので、そのデータをお借りする。

このダントツの付加価値額を見てほしい。巨額の売上高。我が国の基幹産業である自動車業界に迫る勢いである。

しかも付加価値額では自動車業界にほぼダブルスコアを付けている。

かつ、自動車業界よりも少ない人数でやっている。

や化N1(やっぱり化学がNo.1)としか言いようがない。

しかし2020年からコロナ禍により経済活動はストップ、そして景気は後退して化学メーカーも出荷が激減した。

まだ2020年のデータが公表されていないのでデータを示すことはできないが、2019年よりは確実に悪かったと言える。

というのも自動車の工場がストップしたりして、生産活動が抑制されたからだ。

化学メーカーは、言い方を変えれば素材メーカーである。

最終製品が売れないなら、素材も売れないというだけで、特に異常な事態ではない。

そのためもちろん、各業界の稼働が復活した時2020年の後半から2021年初頭には、また以前と同じように出荷も回復した。

2021年 原料不足

こうして需要に関しては一瞬、希望が見えた。

そんなところに2021年は原料不足の年であった。

春はアメリカの寒波から始まり、

世界各地の化学プラントが故障によるフォースマジュール宣言(不可抗力宣言)、

夏にはコロナ対策で輸出入が大変になって港が混み過ぎちゃったり…

あ、パナマ運河が詰まったのも今年だったな。

トドメに秋に中国の環境規制による電力ストップ。

2021年は原材料が足りなくて、そのためオークションが起きて価格が倍以上になったり、供給制限をかけられたりした。

(参考記事:化学メーカー営業マン日誌 シリーズ

そんなこんなで化学メーカー営業マンは「いざ鎌倉」が今年4月くらいから始まって、6月くらいまで値上げ大戦だった。

一息ついた頃に10月ごろからまた2次値上げの大戦をして12月の現在に至る、という感じだった。

今これを書いている12月末は、2次値上げがひとまず完了して、束の間に訪れた「凪」だ。

実は既に3次値上げはやらざるを得ないことが確定しており、来年2月以降はまた大戦が始まるだろう。だから今は「凪」なのだ。

この事態を僕の上長も

「俺も30年以上勤めてきたが、こんな事態は初。

リーマンショックや震災、いろんなメーカーの爆発事故があったけど、30年で一番忙しい。

ここまで材料がないのは異常事態。

こんなに値上げしたことはない」

と語っていた。

このような歴史的な時期に、僕たちは居るのだ。

商社マンや同業の人々も何人か退職してしまった。

仕事きつすぎると。

ただ彼らの共通点は、新人だったり、バックオフィスから営業部へ配置転換したばかりの人に多かった。

「営業ってこんなに大変なのか、値上げばっかりじゃないか」

とイヤになってしまったに違いない。

いやいや、これは30年で初めてのことなんだって。

転職したら変わるのか?

そしてこんな僕でさえ、この半年の大戦は結構しんどくて、正直辞めたいなと思う場面もあった。

しかし、その度に考えた。

「仮に転職しても、労働環境が良くなる可能性はあるのか?」と。

今僕らは、原料が足りなくて高騰しているから、その値上げで忙しい。

当然僕らのお客様は、値上げされてきつい。

となるとお客様たちもいずれは値上げに走らなければならなくなる。

今、世の中では給湯器や洗面台、お風呂の部品、コンクリートなどが価格高騰していたり入手が困難という話も聞く。

機械や自動車も、半導体不足で生産調整とか、納期未定とかが相次いでいる。

つまり建築に行っても大変だし、自動車に行っても大変なのだ。

別に化学業界だけが特別に、異常に忙しいわけじゃない。

どこの業界も大変なのだ。

不動産業界もバブルになっちゃっているようだし、旅行やレジャー、飲食も壊滅。

見渡してみれば、コロナや原料不足でダメージを受けていない業界などない。

もしあっても超富裕層向けの特殊な業界などの一部で、自分が関われる可能性は低い業界であろう。

化学メーカー、実は強かった

化学メーカーの値上げはなんだかんだで通っている。

いや、ゴリ押しして、通しているというのが正しい。

「最悪、売らないからね?」

という最後の切り札が化学メーカーにはあるから、ケンカした場合、結構強いのだ。

化学メーカーの製品は、その特性上、簡単に切り替えができないようになっている。

これを調達できないとなれば、お客様は生産ストップとなり、多大な損失を被る。

まず材料の確保が第一なので、実は化学メーカーの立場は強い。

「オタクに安く売るのは材料が勿体無いんで、高く買ってくれるところに売るね。バイバイ」

という脅しが効く。

まぁ…リアルにそうなのだが。

しかし逆に、これが代えの効くような製品だったらこんなに強い立場で交渉はできないだろう。

例えば特に特徴のない汎用的なコップを作っているメーカーだったら「この値段じゃなきゃ売らない!」と言ったら卸売や小売は「あっそ。じゃ他から買うね」でオワリだ。

この「他から買うね」とか、「代わりのもの探すわ」をされてしまう商材はとても弱いし、これからどんどん淘汰されていくと思う。

これをコモディティ品という。

この手の商品は、サプライヤーがたくさんあるので、供給過剰になって値崩れしているのだ。

化学メーカーは既に、プレイヤーの数はかなり絞られている。

長い歴史の中で、既に淘汰が結構進んでいる。

設備集約的で、参入がほぼできないという業界構造もある。

そもそもプレイヤーの数が少ないのだ。

まとめ:やっぱり化学はいいよ

たしかに今は、忙しい。

値上げという、最もタフな交渉をすることは、気力も大幅に使う。

資料づくりのため、多少の残業もあるかもしれない。

コロナのせいで無意味な外出もできなくなってしまった。

以前と比べると、マッタリホワイトではなくなってしまったかもしれない。

しかし、他業界と比較をすると、相対的に「強い」ということがわかる。

切り替えが難しいため値上げもわりかし、強行しやすいタイプの商材であることに今回の騒動・大戦で気がついた。

給与やボーナスカットとか、人員削減のリストラとか、そういう動きも(今のところ)ない。

そして相変わらず、化学業界は若手不足だ。

将来性が危うい業界にいる29歳以下の人は、その年齢だけで化学メーカーに入れるチャンスがあると思う。

そんなことを思う2021年末であった。

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