「売るな」と言われる営業マン

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日記

僕は化学メーカーに勤めていて、営業をしている。僕の勤務先は「仕組み」がよくできているので、勝手に毎月売れるし、特殊なノウハウにより競合からも守られ、したがって価格破壊も起きていない。ゆえに利益率も高いので、営業マンは全然尻を叩かれない。すごい会社だと、当事者ながら思う。こんな優れた仕組みを構築できた歴代の社長と、その構築のため頑張ってくださった先輩方を結構マジメに僕は尊敬している。よお作れたなこんなの、という思いだ。

今回はそんな化学メーカー営業マンが日々、指示されていることを少し公開しようと思う。

「あまり売り込むな」

大変ありがたいことに僕の勤務先は、毎年業績を伸ばしており、つまり生産量が増え続けている。僕が入社した5年前は、キャパシティに余裕があったと記憶しているが、この5年でキャパがイッパイイッパイになってきた。生産部が余計な在庫を作らないようにしたり、残業してくれたりして、キャパが整理されたり拡大した。その努力も、そろそろマックスに近づきつつあるとのことだ。

そこでこの指示が下された。

「新規にあまり売り込むな。大きな仕事、受けれないから」

おぉおぉ、営業マンが「売ってこなくていいよ。むしろダメ」なんて言われる会社があるんだなぁと僕は感動した。以前勤務していたブラック企業(建築業)は、たとえキャパが足りなかったら営業マンをかき集めて現場に突っ込んで、なんとか終わらせるくらい、キャパが足りなくても仕事を請けていた。施工の人力と化学品は違うから同列にはできないものの、それでも「売らなくていいよ」はなかなかに斬新な状況だなぁと思った。もちろん製造キャパの増設は企画されているが、明日明後日に増やせるものではなく、年単位で工場を新築して設備を増設するのだ。

「売りたくないから高くしろ」

これは僕が昨年から接触していた新規のお客さんから「採用したいので見積もりお願いします」というメールがきたときに上司に言われたセリフだ。新規開拓は素晴らしいことなのだが、売りすぎ注意の状態ではかえって困った事態となる。

しかしあからさまに「御社に売るぶんがないんです」とは言えないので見積もりをメチャ高くしてお客さんが買えないように仕向けろ、との指示であった。オイオイなんのために僕は新規開拓頑張ったんだよ…と悲しくなるが、事情はわかるから仕方ない。

原料費や、物流費、包装容器の高騰を理由に金額マシマシな見積もりを提出した。お客さんは正直驚いていたが、性能上、やはり必要とのことなので、上司の思惑通りとはいかず決まってしまう(売れちゃう)だろうなあと僕は感じている。

スマン上司、やっぱ売れちゃう。

「廃番しよう。代替品は無し!」

化学メーカーは歴史がある会社が多く、したがって大昔からずっと同じ製品を使ってくれているお客さんも多い。しかしながら、古い製品は法規制の強化で使えない材料が増えたり、そもそも原料が廃番になったりして作れなくなるものもある。そういう時は、代替原料を探したり、近しい品番をオススメしたりする。

これが通常の動きなのだが、近年はその手間すらも惜しくなり、廃番の運命が避けられない製品は容赦なく廃番。そして代替品は無しと回答する。

もちろんお客さんは大変困る。突然これまで使っていたものが廃番になってしまうのだから。しかも、その製品は他に替えが効かないから弊社から買っているというのに。

当然、こんなことをしてしまってはお客さんに恨まれて、今後の案件はなくなるのは自明の理。僕が感じるのは、会社はお客さんを選別しはじめていることだ。全ては救えないので、救うべき顧客と切り捨てる顧客を選別しているのだ。中小零細の命運を握ることもあるのが、化学メーカーなんだなと痛感した。

売らないけど、売りたい

ここまで、いかに売らないか、そして顧客を選別しているというリアルをお伝えした。まったく、世の中の営業マンが「売ってこい!数字!」と毎日怒られているというのに「売るな!ことわれ!」と言われる営業マンがここにいる。

それでも将来的に大きな仕事につながりそうなお客さんもたまに出てきてしまう。そんな時はどうするか?

「後につながるように、うまく断れ。キャパ増えたらまた行け」

なんだこの指示?と正直思うのだが、まあ本音だろう。一回断ってしまったらお客さんはガッカリしたり怒ったりして、もう取引してくれないであろう。そこをうまくなんとかして繋げて、キャパに余裕ができたら再び攻勢をかけよ、という極めていいとこ取りを狙った作戦を指示されている。そりゃわかるけど節操や信念が無いなとも思う。

こんな状態だからますます営業マンはヒマになり、みんななんとか仕事をわざわざ作り出している。日報を超細かく書いたり、それ会う必要なくね?っていう案件でもわざわざ面談に行ったりしている。みんな「仕事してる風」を醸し出すために必死だ。

そんな彼らを見守りながら、僕は仕事してる風にして、文章を執筆しているのであった。やってて良かった、ブログ書き。

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