僕は化学メーカー営業マン。最近、急激な需要増により工場がとても忙しい。そんな忙しい工場の人たちと交流する機会があり、その中で新たな知見を得たので共有したい。
御家人はリアルでドライ
御家人(ごけにん)という単語、中学の歴史の授業で学んだと思う。鎌倉幕府に仕える武士のことだ。御家人は、普段は自分の領地を安堵(所有を認めてもらうこと)され、また謀反人が出た場合には、その謀反人の領地を取り上げて、功績のある御家人に分配するということもあった。
つまり、鎌倉幕府という親方に、領地(収入)を保証してもらう代わりに、トラブル時には一生懸命働くね、といういわゆる「御恩と奉公」の関係で成り立っていた。これは、一見美しい制度のように思えるが、とても現実的でドライだ。カネ=領地をもらえるから、従うのである。
もし、鎌倉幕府に力がなく、御家人のカネを確保できないならば、御家人は「じゃあ奉公やめるわ」とドライに去っていく。というか、元寇の後はそうなってしまって、御家人制度は瓦解した。元寇は外国(モンゴル)との戦いで、しかも防衛戦だったから、新たに与える領地(カネ)もなかったからである。なんともリアルな話ではないか。
現代の御家人
そういう意味では、現代を生きるサラリーマンも、会社という幕府に対しての御家人である。給料というカネ(御恩)をもらえるから、社員は奉公として労働力を提供する。カネが無かったら、当たり前だが御恩と奉公は成立しない。
しかしながら、その金額が本当に納得する額なのか?という点に疑問が残る。とはいえ、企業も営利団体であるから、労働分配率はあまり上げられないだろう。金額に天井つまり「頭打ち」があるとするならば、残るは「時間」であろう。つまりは時給換算してどうなのか、というところだ。
残業&休日出勤の工場
僕の勤務先の化学メーカーは、近年、順調に業績を伸ばしており工場はフル稼働状態にある。しかも、スポット的に受注増することもあり、そういう場合には工場は残業や、交代制の夜間操業、休日出勤などもする。当然、対価としてのお金はもらえるのであるが、時間的にきつそうである。
僕は営業職なのだが、そんな工場の人々と絡む機会があり、それとなく事情を聞いてみた。残業とか、夜勤とか、休日出勤って、ツラくないのか?と。辞める人いないのか?と。
なぜなら、僕はかつて勤めていたブラック企業(建築業)でも同じようなことがあったからだ。人手が足りないから現場を手伝いに行って、残業し、夜間施工して、休日出勤もした…僕はとてもツラかったから、彼らの境遇がちょっとわかる。僕は辞めたくて仕方なかった。
リアルガチ御恩と奉公
「残業・夜勤・休日出勤、キツくないんですか?」と聞いたところ、
「キツいさ。でも会社が忙しい時だからね。
こういう時こそ、頑張り時さ!」
となんだかうれしそうに語るのである。
あぁ、これぞ真の御家人の姿だ、と素直に思った。
この工場の人は、会社に恩義をしっかり感じている。穿った見方をすれば、洗脳されているとも言える。が、僕の勤務先(化学メーカー)は普段から、ちゃんと御家人たちを良い待遇で雇っていたから、こういうピンチの時こそ気炎を上げて頑張るのである。
企業も慈善団体ではないから、もちろん無限には労働者にお金は配れない。しかし僕が思うに、僕の勤務先は儲かっているがゆえに、工場の人々にも、世間の水準よりもちょっぴり多めの年収を出している。それは、賞与の平均額(公示される)から察することができる。
このご時世、多くのメーカーでは工場勤務者は派遣が多くなったり、外国人を呼び込んだりして、いかに安くするかに挑戦しているのであるが、僕の勤務先は真逆だ。正社員で、給与水準が高めだ。
こういうのは、やっぱりすぐにわかるから、社員は会社に恩義を感じているのだ、だからこそ、真の御家人がこうしてたくさん存在しているのだ。
御家人の教訓
僕の勤務先は、正直儲かっているから、こういうことができるのだと思う。儲かっていなかったら、世間の平均よりも多めの給与水準など保てない。コストカットばかりに目がいって、社員の忠誠心を高める施策が打てないだろう。社員の忠誠心というものは、視覚化できないからだ。仮に形だけアンケートなどやっても、意味はない。社員が心から、会社に忠誠を尽くそうと思うか、尽くしても良い君主であるかジャッジするのは、ただ一点。
そう、「金払い」である。
いにしえの鎌倉幕府と御家人のように、そこには「カネ」を媒介としたリアルでシビアな繋がりがある。鎌倉幕府は、御家人にあげるカネがなくなっていって、崩壊した。北条政子が「頼朝公へのご恩を忘れたか!」と演説して、精神的報酬を元に戦えたのは1回きりだった。しかもそれは精神的な貯金があったから。使えば、なくなる。
もし僕の勤務先も、普段から金払いが悪かったら、工場の人たちは残業・夜勤・休出にウンザリしてソッコーで辞めてしまって、工場は機能不全、会社は大損害となっていただろう。工場が稼働しなければ納期が守れなくて信用を失う。したがって商圏を失う。
御家人にしっかり報いているから、こういう「有事の時」に御家人は一生懸命働いてくれるのだ。
さてそんな僕も、営業という分野での御家人だ。営業の御家人の「いざ鎌倉」は原料費高騰の時に値上げしまくることだ。ひとまず、今はないので毎日ブラブラしているが、そんなテキトーな活動を許容し、平均水準以上の給与を確保してくれる会社に、少なからず恩義を感じる御家人ヤコバシなのであった。
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