2022年6月。
3月から始まったロシアーウクライナの戦争はいまだに続き、原油価格は高止まり。
ドル円も歴史的な円安(130円)が進み、輸入品の価格は為替分だけでも大幅アップしている。
中国上海のロックダウンがようやく解除されそうになっているが、いまだに物流は混乱。
化学業界においても、目立たないが日夜、各社プラントトラブルが発生し緊急停止したり、これは前もってわかっていたことだが定期修繕で生産ストップしたりして、相変わらず原材料の供給はタイトである。
これまでであれば、国内品が不足したら輸入で補うという手段もあった。
というか海外品が安値で攻勢をかけてきていた。
しかし今では、国内品を入手するのが大変、さらには輸入品も購入はできても実物が物理的に届くことに時間がかかるなど、今までになかったことが起きている。
そのような状況を見て思うのは、人類はもしかしたら2019年頃が物質的には最盛期だったのではないか、ということだ。
2019年以前:数量を追う時代
思えば、2019年より少し前、2017年ごろから新興国や中国が発展して石油化学プラントをブンまわしていたおかげで、石化製品はジャブジャブに供給過剰になっていた。
石化製品の材料というのは、原油からくる。
原油精製とは、ガソリンや飛行機の燃料を取り出すのが一番の目的であり、その副産物としてプラスチックやビニール袋の材料となる軽質なものが(ナフサ)が取り出される。
つまりナフサとは、ガソリンをたくさん精製すると、副次的に、自動的に、ついでに出ちゃう、採れちゃうという性質の材料なのだ。
そのため、新興国や中国がガソリンなどをたくさん精製すると、このナフサも一緒に出てきてしまって、その売り先を求めて安売り合戦が繰り広げられた。
要するにダブついていたのだ。
その恩恵を受けて、フィルムやら、プラスチックやら、石化製品がとても安くなった。
この時代は、そういう安い材料が無限供給されるような時だったから、メーカー各社はできるだけ生産効率を上げて、最大化して、それを加工して数多く売った方がよかった。
材料費がほぼ下限に張り付いていて、そして販売価格がある程度決まっているとなれば、あとは数量による掛け算である。
どれだけ多く売ったか?が企業の儲けに直結する。
思えば当時は、利益率や販売価格を考えても仕方がないから、いかに「数量」を売り捌くかばかり考えていたように思う。
言い方を変えれば、いかに他社のシェアを奪うか?に明け暮れていた。
材料費と売値という変数が固定化されていたら、あとは「数量」しか操作のしようがないからだ。
安値競争、きわまってた
そのような背景だから、2019年ごろは安値競争が行き着くところまで行き着いていたと思う。
原材料費はほぼ下限に張り付き、先述のようにシェア争いが死活問題になっていた。
そのため安売り合戦が激化して、消費者は良いものを安く買えた。
とにかく在庫がいっぱいあったから、小売店も売り捌かなくてはならず、安売り競争を激化させた。
そうして1円でも安く販売できた小売チームがお客を総取りできるというような市場になっていた。
それどころか無料で供されるサービスやモノも多く出回っていた。
そういう意味では人類、特に日本人は、最大限の豊かさを享受していたのではないだろうか。
とにかく原材料が実質的に無限とも言えるような状況で、24時間操業などしてモノを大量生産してコスト下げて薄利多売していた。
消費者にとっては安く手に入る、有利な状況とも言えたが、それは「人件費」の削減も同時に発生していた。
聖帝サウザー師匠の言うところの「労働力再生産の経費」が下がっているのだから給与もスライドして下がる。
また安売りするためには主に材料費か人件費を削るのが定石である。
原材料費は既に下限となっていれば、残るは…人件費を削るしかない。
雇用形態も無茶があった
資本主義においては「労働力」も商品であり、その販売方法にはいくつか形態がある。
この中でいわゆる非正規雇用やアルバイトという形態は、ひとりで自活するのにやっとの対価しか与えられない。
聖帝師匠風に言えば「家族を持つための経費を認められていない」形態である。
悲しいが、そういう形なのだから仕方ない。
本来であればヒトひとり雇って専属で労働力を販売してもらうのなら相応のカネが必要であるところ、大きく節約できるという点でこの形態は日本中に蔓延したし、それを拒否できる人も少なかったから、それに合わせてデフレが進行してその極地が2019年だったと思う。
この2019年が最も賃金安く、最も物価が安かった。
資源はジャブジャブ、人件費は最低でも許される。そういう極まった状態が2019年だったのではないかと思う。
ワールドワイド最盛期
原料ジャブジャブと関連するが、2019年までは世界中で貿易が活発であった。
コロナも無いため輸出入はし放題、港湾労働者のブラック労働環境も看過されやりたい放題。
トラックドライバーの待遇も悪くやりたい放題、無法地帯ゆえに、考えられる限りの最適化が行われていたように思う。
その最適化の結果、ジャブジャブに余った原材料が節操なく世界中に供給されてワールドワイドな市況はひとつになって、そして飽和して安売り合戦をしていた。
なにしろ余っていたからだ。
本来であれば、欧州、北米、東南アジアといったように域内での地産地消が基本であるはずの化学品や食料品が、世界中で貿易された。
これは古典派経済学のいう「比較生産費説」が最大効率の形になっていたのではないか。
いわゆる、チーズとワインを例にとるアレである。
チーズの生産が得意な優れた国はチーズの生産に特化し、ワインの生産が得意な国はワインの生産に特化する。
そうして効率的に生産したそれぞれを交換すれば、一国内で両方作った場合よりも供給の総量は増える、という説である。
途上国で安価な労働力を用いて農作物や安価なコモディティ品を作り、先進国はハイテク高付加価値の製品の生産に特化して、それらを貿易して交換し合う。
この比較優位を追い求めた結果、人類が物質的に栄華を極めたのが2019年だったのではないか。
2020年以降コロナ禍、脱炭素
2019年が栄華の極みとは、言い過ぎなのではないかと思う読者もいると思うが、しかし冷静に考えると2020年以降には2019年以前のようにできないことがたくさんある。
まずコロナ禍により海外との行き来は簡単ではなくなった。
検査を受けたり隔離期間をおくこと、ワクチン接種証明書など障害が増えた。
貿易は確実にやりにくくなった。
また脱炭素の動きが本格化し、世界の資本は石油に積極的に投資しないという方針を打ち出している。
投資が無ければ、新たな油田の発見も減り、老朽化した設備の修繕も難しくなる。
ますます産油量や精製量は減っていくだろう。
さらに電気自動車が主体になるとすれば、ガソリンの需要も減る。
ガソリンの需要が減れば伴ってナフサの精製も減り、石化製品はますます高価になっていくだろう。
円安もある。
エネルギー資源もなく、食糧もなく、これらを輸入に頼る日本にとっては円安はひたすらに痛い。
かつて円安が貿易に有利だった時代はあったが、既に生産拠点を海外に移してしまった現在では、円安は必ずしもプラスにならない。
むしろ海外で作ったものを買い戻す際に為替リスクが大きくなる。
これらを考えるだけでもコストが下がる要因はほぼ無い。
2019年以前のように原料がジャブジャブに余り、自由に貿易し放題、運輸し放題という条件が戻ってこないことがわかる。
独立の難易度も急増
そう思えば、2019年以前というのは雇われ人卒業するという点においても、最良の時期だったのではないかと思う。
築古戸建てをリフォームするにあたっての材料や工具も安価だったし、飲食店をするにも食材が安い時期だった。
金利も低かった。
今はウッドショックやら水回りの部品が遅延しまくり、給湯器は半導体不足で品薄で高値になっている。
今後これが大きく改善して、2019年以前のようにジャブジャブ供給過多になって安売り合戦で価格崩壊するか?と考えると、シンプルに無理だなと思う。
今になってそのことに気がついても遅いのではあるが、今この2022年よりかは様々な面で独立がしやすかったのではないかな、と思う。
2019年以前というのは、人類が栄華を極めたがゆえに、物質的に社会が豊かだった。
ゆえに豊富にあった資本、その傍流をうまく個人事業に引き込んだ人が、美田を作れたのだと思う。
美田とは、ビジネスの基盤である。
具体的には賃貸用の不動産や、飲食店の店舗や設備などである。
これは田んぼを開墾する行為だ。
続いて水を流し込み苗を植えるのだが、この苗はつまり「顧客」である。
言い方を変えると「ファン」だ。
独立自営をしていくにあたっては、定期的に通ってくれる、仕事を依頼してくれるファンがいなくては成り立たない。
こうして美田を開墾し構築できたときに独立自営業は軌道に乗っていくのだと思う。
そして今、物理的な栄華をピークアウトした現在ではまた違ったやり方が求められるのではないか。
従来のように安く買って安く売る方法は、成り立たないであろう。
その形態の商売は、先行者優位がありすぎる局面であり、既に美田を構築し終わった人と同じ土俵で今から戦いを挑むのは無謀だ。
元の仕入れが違いすぎるからだ。
そのため求められるのは、高い初期投資や高い材料という背景の中で、いかに付加価値をつけて高く売っていくか、という考え方になると思う。
そしてそれを受け入れることができる、アフォーダビリティの高い顧客をいかに狙っていくか、商品を作っていくか、がポイントになる。
これまでのように安物を大衆に売っていくというスタイルは儲からないし、そもそも成り立たなくなっていくだろう。
体力の尽きた企業から撤退して、最後に生き残ったところがその優位性でもってガツンと値上げして回復、儲かる。
それを見て新たな新規参入が起こる。
まさに三国志の冒頭のように、
「およそ天下の大勢は分かれて久しければ必ず合し、合して久しければ必ず分かる」
ということなのだろう。
これに巻き込まれない小規模ビジネスが個人事業には必要だ。
コメント