今年に入ってから多くの企業の決算が発表された。
ことごとく業績が悪い。
特にメーカー系は悪く、多くの大企業が減益、悪ければ赤字計上したりしている。
コスト高
これらの企業の業績が悪い理由は明らかだ。
原料費や操業費(電気代)の上昇に、販売価格つまり値上げが追いついていない。
原料費が+20%しているのに値上げは+5%など、足りないから減益・赤字になっている。
もちろんウクライナ侵攻によるエネルギー(石油・石炭)の値上がり、円安による輸入品のコスト増などもある。
人件費も上昇基調だ。
労働者の確保・奪い合いという意味で賃金も上げていかねばならない。
政府はインフレターゲットを以前より2%に設定していて、達成されたヤッターみたいなことを言っているようだが、これは当初の意図とは異なる。
政府がずっと狙っていたのはディマンドプル型のインフレだったが、今回のこれはコストプッシュ型のインフレだ。
それどころかスタグフレーションに入っている。
淘汰と撤退
なぜこの20年ほどで政府は狙っていたディマンドプル型のインフレができず、そして今スタグフレーションを招いているのか。
それは化学メーカーでは営業をして、初めてわかった。
供給能力が高すぎるからだ。
ディマンドプル型インフレは、需要>供給となった時に起こる。
欲しいという人が多いけれど、供給が少ない状態。
売り手が強くなって、値下げ交渉など起こらない。
少し前の自動車の特定グレードが品薄になった時と同じだ。
しかしながら日本のメーカーは供給不足、品切れの機会損失を強く恐れるために、生産能力を増強した。
また抜け目ない企業は供給不足で機会損失している部分を狙って参入し、こぼれた顧客を取り込むことに成功した。
そうして需給のバランスが一致するところまで行ったのは良かったが、それらの財が行き渡ったら需要が減り始めて需要<供給となって供給過多、一気にモノ余りとなった。
こうして売れ残りが出て、それを叩き売ることになって市場価格は崩壊。
そして減りつつあるパイを奪い合って値下げ競争の激化…が特にこのコロナ前の2010年代だったのではないだろうか。
振り返ると、この時代においてはいかに材料を安く仕入れるか、安いコストで作るかという競争に明け暮れていた。
多くのパイを押さえた企業はその分、多くを生産できて、伴って多くの原材料を仕入れることができた。
多く仕入れるから、供給者(サプライヤー)に「たくさん買うから安くしてよ」と交渉ができた。
この時代、数は正義だったから、それが通った。
また当時は原材料の生産もフルスロットルだったので実質的に制限なしであったから、原料不足という観点は少なかった。
この原料ジャブジャブ状態に立脚して、メーカー各社は24時間操業や機械化を進めて、極めて効率的になった。
こうして安く大量に仕入れて、速く大量に作れる体制が様々な企業で完成して、コロナに突入した。
そして世界的な経済停滞と、伴って需要の減。
あらゆるものがダブついた。
資源は無限ではない
同時に、脱炭素やマイクロプラスチック問題といったSDGs活動がいよいよ本格化し、石油産業は槍玉に上がった。
2020年、コロナ禍による需要の急減で、原油がダブついて価格暴落した。
ここで痛い目を見た石化関連の企業は気がついた。
「フルパワーでプラント(工場)をブン回しても良いことないな」と。
こうして生産調整の試みが始まった。
そして時期的にも、多くの化学プラントは高度成長期に建てられたものが多く、それらは50年以上が経過していた。
これを直していくには数百億規模の投資が必要で、果たしてそれをやる意味があるか?リターンはあるのか?ということを多くの企業が検討し始めたのがこの2年間であろう。
結果、事業撤退を選択する企業が続出している。
「儲からないのでやめます」ということで、これは止めることはできない。
確かにこれらの企業やプラントは高度経済成長期の当時には必要だった。
しかし今やその役目を終えたということだろう。
実際、当時はオール国産でしか作れなかった祖原料が今や中国はじめアジアの国々で最新設備でもって速く、ロスなく効率よく大量に作られているからだ。
過剰で年老いた生産設備はこれからさらに統廃合されていくだろう。
今までが大セールだっただけ
高度成長期から50年間もあったので多くの人は、原材料は安いものであると、それが普通だと捉えていたのだと思う。
しかしこれは、ジャブジャブにモノが余っていたからこその叩き売り価格だった。
タンクに入りきらないから出血大セールが常に行われていただけだったのだ。
先述の通り、多くの企業が不採算な事業からの撤退を表明しはじめている。
今、化学界隈に居る人はわかると思うが、
「えっ、あの会社がこの原料辞めんの!?」
という事例が後をたたない。
「えっそれ祖業じゃん!?」
というものすら、容赦なく辞めている。
この他にも、さらに川上の材料が、例えばウクライナ由来だったりして入手不能になったりとかもある。
そして連鎖しての廃番のお知らせ…
この代替品探し、4M変更申請とテストに追われたのが2021〜2022年だった。
この流れは残念ながらまだまだ続きそうだ。
そして競合他社が消えたとき、残った会社は値上げができる。
ただこの値上げは、それまで不採算だったのをなんとか存続可能に引き上げる程度となるだろうが、それでも大幅な値上げとなるだろう。
というのもそれまで競合が多すぎて値上げできないがためにガマンしてきた改修費や人件費の抑制がいよいよ無理になってきたからだ。
改修工事ももう延ばせない、人件費も上げないと労働者確保できない、となれば事業継続のため、まずはこの分の手当てとしての値上げが必須だ。
だからおそらくは、値上げの割には大儲けはできないだろう。
赤字だったのがなんとか±0かチョイ黒字になる程度と思う。
そしてこの状況が数年続くので、さらに撤退が相次いで供給が減っていく。
そしてようやくのようやく、需要>供給となるときにサプライヤー側は満足のいく値上げができるのだろう。
つまり生き残りレースということだ。
自然の摂理
だいぶ後ろ向きなことを書いてきたが、これは自然の摂理だ。
供給不足で儲かりそうだから参入が増え供給が増える。
需給バランスが崩れダブついたら値段は下がる。
耐えきれなくなった企業は淘汰され供給が減って需給バランスが戻る。
また供給不足になって新規参入…
今はこの流れの後半フェーズにいるのだと思う。
思えば数年前は、買い手が強くてFAX一斉送信で「一律3%の値下げ要請」とかいう無茶を平気でやっていた時代だった。
今やそんな傲慢な会社があったらまず干される(供給停止)し、それどころかかつては自社オフィスで待ち構えていた購買担当者がサプライヤーのオフィスに出向いて「なんとか売ってくれませんか」とお願いしにいく時代だ。
「オメェに売るもんは無ェよw」
と平気で言われてしまう時代なのである。
そのため直近では原材料費に糸目をつけずとりあえず原料確保、という動きをしている需要家が多いので、結果として決算が悪くなっている。
大変だけど良い仕事
こういうことを日々やっていて思う。
この化学メーカーの仕事は良い仕事だよなぁと。
多くの人々に
- 「欲しい」
- 「売ってくれ」
- 「廃番は困る」
と言われる商品だし、新たな改良や新規製品をお客様と共同開発して、世の中に付加価値を与えていくこともできる。
値上げも、割とまかり通ることがこの2年でわかった。
そして自分には知見が蓄積されて、さらに良い提案ができるようになる。
化学メーカーの営業って良い仕事だよなぁとあらためて思った。
前職を続けていたら…
私は以前、建築系の仕事をしていた。
それはある意味、押し売りのようなところがあった。
必須のものではなくて、プラスアルファの要素をどうですかどうですかとお勧めして周る商材だった。
もちろん商品自体は悪いものではなかったけれど、ただ「必須か?」と思うとそうではないものだったし、類似品より高かった。
だから売れにくかったし、伴って上司から毎日数字について詰められていた。
毎日7時に出社して事務処理、9時から1件目、18時まで営業回って19時帰社、そこからミーティング1時間(詰め大会)、そこからまた事務処理して退社は22時…そして見込み残業で年収は300万円前半だった。
ひっでぇ会社だなぁとやはり思う。
そしてお客様に半ば泣き付く形で、お情けで仕事をもらっていた…そんなことを若い頃にやっていたことを思い出した。
その前職の会社、久々にホームページを見てみたら、事業部ごとにバラバラになって、M&Aで他の企業に買われていた。
社名も社長も変わっていたし、社員数も減っていた。
今なおこの会社で勤めていたら大変だったろうな…と思う。
やはりあの時、勇気を出して化学業界に飛び込んで良かったなとしみじみ思った。
そうでなければこんな文章は書けていない。
やはり化学メーカーはオススメできるとあらためて思った。
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