直近の聖丁Radio(614話)にて「いかに気力体力の損耗を抑えた勤め人をするか」という話題が出た。
そのためには、そういう環境・条件が整っている勤務先を選択すべし、具体的には〜〜という流れになった。
「お?この流れはもしかして私が出演した白熱教室の話題が出るか!?」
とワクワクしていたらまさに言及してくださった。
(チャプター4「不動産を買える態勢を取らねばならない」の4:20あたりから)
リリース(発売)直後ならともかく、約3年半が経ってもなお、話題に上げていただけてうれしい。
それはもちろん、この内容(意識低い系転職)が時を経ても色褪せなかった、ということを示している。
ただ、あの白熱教室を収録したのは2019年秋だった。
コロナも全くなく、インバウンド最盛期だったと記憶している。
原材料もジャブジャブで安売り合戦だった。
2020年からの3年を経て、多少、変わったことや私が成長して考えをあらためたこともあるので、今回はそこについて語りたい。
値上げは大変ではあった
2020年からの3年間を振り返って思うのは、ただただ「値上げが大変だった」である。
このブログでも季節ごとに更新していた「化学メーカー営業マン日誌」シリーズで述べてきたが、国産ナフサ価格という、石化製品の価格の変動の根拠によく使われる指標がある。
これが2020年夏頃は極めて低い2万円台に落ち込んだ後、2021春から上がり始めた。
2.5万→3.9万→5.2万→6.5万と順調に上がった。
6.5万…いや、その前の5.2万の時点で十分にヤバい。
2.5万→5.2万で既に倍以上の原材料費アップだ。
トドメにウクライナ侵攻ターボによって2022夏には過去最高値の86,100円という数字を叩き出してピークに達して、もう日本の製造業はオワリなんちゃうかな?くらいのレベルとなった。
2020年は底値ではあるが、そこから換算して原材料費3倍以上である。
奪い合いオークション
ナフサ水準が高いのも十分にヤバかったが、もっとヤバかったのは様々な要因で生産ストップ、そして玉不足による奪い合いオークションだった。
2021春のアメリカ大寒波、日本でチラホラ起きるまぁまぁ大きい地震、停電、フル稼働したら壊れた、漏れた、燃えた…などなどで、作りたくても作れない、足りない、という事件がいくつも起こった。
特に海外メーカーは「フォースマジュール宣言」という、不可抗力による供給制限をよく出していた。つまり開き直り宣言である。
ある意味で謙虚な、潔い姿勢と言える。
できないもんはできないと、ハッキリ言うことで需要家に変な期待を持たせない。
ゴネれば出てくるんじゃないかと思うから、無駄な努力をしてしまうところ、そういうのは一切なく全部無理ですと言い切るその姿勢は、かえって優しさのひとつであろう。
そういうことがたくさん起きた結果、化学メーカー各社はまず大きな損害を被った。
市況が爆上がりしたけれど、まずは原材料は確保しなくてはならない、ということで高い材料をオークション形式でひとまず買わざるを得なかったのだ。
そして大ダメージを受けて、さらに当分はこの状況は続きそうだぞ、と思った化学メーカー各社はたまらず値上げに動いた。
2019年の白熱教室において私は
「化学メーカーの営業はそもそもやることが少ないからラクです。毎月勝手に売れますw」
と述べた。
それに対し聖帝サウザー師匠からは
「それならば営業マンなど不要で、バイトやパートだけでも回るのでは?」
との問いがあった。当然の疑問だ。
それに対して私は
「もちろん平時だけであればそうです。しかしたまに、年に1回くらいのペースで大規模な値上げや原材料の廃番など『いざ鎌倉』的な事件が起きます。その時に動員される人員として、営業マンは必要なんです。なので平時は御家人として禄を食んで、飼われているのですw」
と述べた。
そう、この『いざ鎌倉』が特に2021〜2022の2年間はずっと続いてた感じだった。
元寇襲来が4〜5回あった感じだ。
御家人は奮戦しましたよ。私も。
従来では考えられないほど、ありえんくらい奮戦しました。
さすがにこの間は、ユルいとは言えなかった。普通に忙しかった。
私の上長も
「30年やってきたが、今が一番キツイ。リーマンショック、震災も大変ではあったが、海外からモノは引っぱってこれた。今回は世界的にモノがないからヤバい」
と言っていた。
そして、これは化学業界だけでなくどの業界も同じと思う。
私たち化学メーカーが値上げを申し入れたら、ドミノ倒し的に値上げの波は末端へ向かって伝わってゆく。
例えば自動車関連であれば、
化学メーカーが値上げしたらパーツを作っているメーカー苦しくなって、パーツの値段を上げる。
パーツが高くなったらユニットを組み立てているメーカーは苦しくなってユニットを値上げせざるを得ない。
ユニットが上がればそれをアセンブリしている自動車メーカーも収益が悪化する。
そうして自動車の値上げとなり一般消費者は買い渋る。
この時、この波の伝播はスムーズには行われず、頑強な抵抗を見せる。
特に末端(一般消費者)に近ければ近いほど、その抵抗は頑強となる。
頑強な抵抗を受けたところはどうなるか?
それは上がった分のコストを自分のところで吸収し、負担することになる。要するに儲けがなくなる。
この動きは2021年の1年間続いた。
化学メーカーはガンガン値上げするけど、末端製品が上がらなかった。
それは間にいるさまざまな企業がその儲けを吐き出していたからだ。それがいよいよ限界になって、潰れるところも出てきたし、いよいよ我慢できんとなって値上げ強行し始めて、2022年から末端の値上げが始まった。
しかしながらその幅は10%程度と、全然足りないことは私から見れば明らかである。
化学メーカーが+10%程の値上げを4発敢行したのだから×1.1倍を4回やったら146%つまり1.5倍になっていなければ採算は取れない。
株式をやっている人ならわかるが、2022年度決算は、どの会社もズタボロだ。原材料費や電気代・燃料代の上昇がそのまま赤字になっている。
価格転嫁は僅かで、焼け石に水。
こういう状況だ。
そのため化学メーカーだけがキツかったわけではない。
先述の「いざ鎌倉」も、規模や程度の違いこそあれ、どの業界でも起きていたのだと思う。
原材料を使わない、サービスやIT業界であっても、その顧客に余裕がなくなれば売り上げは減るだろうし、食品なども激しく値上がりしている今、無風の業界などないのではないか。
つまりどの業界もヤバかったと。
ハッキリわかった化学品の強さ
2021年からの数度に及ぶ値上げ大戦を経て、分かったのは化学品の強さであった。
こんなに値上げしちゃったらさすがに切り替えられちゃうかな、他の原料を検討されちゃうかな、と懸念していた。
が、思ったほどシェアを失うことはなかった。
当然、お客様も代替検討をしたらしいがうまくいかなかったらしい。
また4M変更の試験をする手間とコストを考えると、値上げを飲んだ方がマシ、という判断もあった。
あとは私が売っている化学品の値上げ幅などまだマシな方で、レアメタルやら稀少な原料は3倍とか10倍がザラで、そっちの方が忙しいから私の1割程度の値上げなどサッサと認めてしまうというお客様もいた。
もちろん頑強に抵抗してくる顧客もいた。
そういうところに対しては
「もうそんなにいうなら他から買ってくんね?(半ギレ)」
とか
「もう、やめますか?(暗黒微笑)」
という対応をしたら急にビビり始めて妥結に導こうとしてきたりした。
これらを通じて分かったのは
「やっぱり化学品って強いなぁ」ということだった。
とにかく替えが効かない。
いや、厳密には効くのであるが、替えるのがとても面倒なので実質的にやれないというのが正しい。
多くの材料が精妙なバランスで、トランプタワーを立たせているような製品ばかりなので、1つ変えたら全部変えなくてはならなくなったりする。
それをイチからやることの手間とコストとリスクを天秤にかけたら、10%の値上げを認めて、末端製品を値上げした方がよっぽどいい。
そういう判断にお客様は入っていたと感じる。
ただいつまでもこの状況が続くとも思っていない。競争力を失った顧客のシェアは減っていくだろうし、他材料への切り替えもあり得る。
だからこそ、営業マンは新たな顧客や新たな業界、用途を開拓していかなくてはならないのだが、意外にもこれができる人は少ないようだ。
EX勤め人ルート
私は、2019年の白熱教室においては「化学メーカーの勤め人仕事はユルいので、空いた時間で副業していこう!」と提唱した。
当時から色々とやってみて、その結果分かったのは事業を作るというのは簡単ではないということ。
そして自分の内面とも向き合い、副業していってどうしたいのか?
能力的に、自立自営がやれそうか?
自分の性格に合っているのか?
自分の今のライフステージは?
…と考えた。
またとても運が良いことにEX勤め人のルートが開けたこともあり、勤め人仕事のネガティブな面がだいぶ消えた。
様々なピースが集まった結果、私はそのピースを使って最も自分にとって最良であろうルートを考えた。
それが今、このブログで提唱しているEX勤め人という生き方だ。
誤解なきようにここで説明しておくと、EX勤め人は「エクストラ」勤め人という意味である。
エクストラは「例外の、番外の」という意味だ。
「エクストリーム」ではないのでご注意を。
つまりいわゆる「普通の出世」は目指さない。
普通の出世とは、組織のピラミッドの中で下から順番に上に移動していくことで、いわゆる係長→課長→部長の昇進ルートである。
多くの部下がいて、人海戦術で「草むしり」「雑魚狩り」を日々こなす。
「草むしり」「雑魚狩り」とは、日々湧いてくる顧客からの依頼や、ホームページに反響がくるわけわからん問い合わせの対応などだ。納期対応やクレーム対応も当てはまる。
こういう草むしり&雑魚狩りは、やりたくない。
そして仕事のデキない兵隊の尻を叩いて雑魚狩りさせるのも、やりたくない。
そういう思考回路の私が辿り着いた答えが「独立遊軍の将」となることである。
独立遊軍の将は、組織ピラミッドには属さない。
基本的には部下もいない。
部下なし管理職だ。
(アシスタントの事務員はOK)
そして独立遊軍としての任務は、新規開拓である。
新規のユーザー、新規の業界、新規の用途開発を行う。
既存顧客のお守りはしない。
こういう独立遊軍の将になれば、勤め人として嫌なことはだいぶ減る。
- マイクロマネジメントされる
- 草むしり・雑魚狩りの任務
- 低賃金
これらが大幅に改善して「苦しゅうない」立場となる。
もちろん成果は求められるが、この立場になると通常のピラミッド組織とは違い、ただ活動しているだけで許されるようになるから不思議だ。
新規開拓というのはそういうもんだとお目溢しを受けているのであろう。企業内における特権階級である。
以前私は営業を5つに分類したが、この仕事は「大使」「宣教師」となる。
ちなみに残る3つは「売り子」「店番」「渉外」であり、特に「売り子」はキツい営業となる。
SATニキとフランケンニキ
話を戻そう。
私の提唱するEX勤め人は、確かに、勤め人卒業した人よりは自由さでは劣る。
しかし独立自営の不安定さや、全て自分で行わなければならない煩雑さには曝されない。
結局は自分がどのバランスが好きで、そしてどの程度の実力を持っているのかがポイントだと思う。
フランケン先生は「逃げ起業」という素晴らしい単語を生み出してくれた。
「逃げ起業」は真の平和をもたらさない。
勤め人がマトモにできない性格の人がワーッと熱くなって会社を辞めてしまう。しかし実力がないので貧乏な自営業者に陥る。これが「逃げ起業」の行き着く先だ。
そして私淑するSATニキは私の延長線上にいる先達だ。
SATニキはもはやお金の面だけで言えば働かなくても生きていけるが、様々なことを複合的・総合的に考えた結果、高給勤め人を維持しておられる。
SATニキも、そのブログから察するに独立遊軍の将として自由な振る舞いを許されているのではないかと推察する。
フランケンニキも、実は一度お会いしたことがあり、その時語ってくださったのは組織に属すけれども縛られない「吟遊詩人」になれという教えであった。
聖帝サウザー師匠は、私には真似できないレベルの実力を持っておられ、かつ気質が独立自営に向いているから、あの生き方を選択できる。
この3人の師匠の教えを束ねて次世代に伝えていくこともまた私の使命ではないかと思う。
訂正点
最後に、2019年収録時から大きく変わったことが1点だけある。
それは
「調達部(資材部・購買部)は閑職、出世ルート外れた人が行かされる場所」
という部分だ。
これは2019年には、確かにそうだった。
当時、原材料メーカーは売り先を探してシェアの奪い合いをしていたから、値下げ合戦で、明らかに買い手有利の市場であった。
「で、いくらになんの?^^」
と聞いて相見積もり取りまくってそれをネタに
「他社からこういう見積もり(安い)出てきたんだけどな〜(チラッチラッ)」
と既存サプライヤーをゆする、というスタイルで値下げ交渉しまくっていた。
この頃は、供給過多だったのでモノがないということはなかった。だからこういう乱暴なことができた。
しかしコロナ禍を経て、先述のようなモノがタイトで撤退が相次いでいる状況でそんなことをしたら真っ先に供給停止される。
そしてモノは「高く買う」と宣言している需要家のところに集まる。
こうしてモノをいかに調達するか?しかも異様に高く買っても自社の利益が減るので、情報収集してギリギリのラインを攻めたり探していくという競技に変わった。
その結果、多くの会社の調達関連部署は大幅増員されて、エース社員が投入されるような環境となった。
しかも転職市場でも調達の経験者はバブル状態にあり、給与もドンドン上がっているという。
優秀なバイヤーは奪い合いだ。
ただこの調達関連の仕事は、オフィスワークな上に来客も多く、そして納期遅れなどの調整や代替原料の調査などハッキリ言って激務なのでオススメはしない。
参考記事:
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